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大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)217号 決定

決  定

大阪市大正区小林町一四四番地の一

抗告人

橋口新太郎

右代理人弁護士

真鍋喜三郎

布施市金岡二四六番地の一

相手方

大倉徳一

右代理人弁護士

山本雅造

右抗告人と相手方間の、大阪地方裁判所昭和三四年(フ)第一〇三号破産申立事件につき、同裁判所が同三六年八月三〇日にした破産申立却下決定に対し、抗告人から適法な即時抗告の申立がなされたので、当裁判所は当事者双方本人を審尋した上次の通り決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨ならびに理由は別紙記載の通りであり、これに対する当裁判所の判断は次の通りである。

(疏明)を考え合わせると、大倉木材株式会社(代表取締役相手方)が抗告人に対し、合計金二、〇一二、九一二円の買掛金等の債務を負担していたが昭和三三年一二月頃、右会社が支払不能の財産状態に陥つたところから、抗告人が相手方に対し、相手方個人においても前示会社債務につき責任を持つべきことを要求した結果、同月一一日頃、右会社代表者として個人的に責任を感じていた相手方が、抗告人に対し、右会社債務をいわゆる重畳的に引受けた(この点は抗告人において自陳するところである)ことが認められるところ、(疏明)を考え合わせると、同月二四日に開催された前示会社債権者会議において、抗告人が他の債権者と共に、右会社に対する債権額の八割を免除し残余の二割のみの配当を受ける旨の決議に賛成した結果、同会社が同三四年五月二一日抗告人に対する二割の債務、即ち金四〇二、五八二円の内入弁済として金一八二、五七一円を支払い、残額二二〇、〇一一円については、相手方においてこれを支払うべく準備をした上、同三六年四月二〇日附翌日到達の内容証明郵便をもつて、抗告人に対しその受領方を求めたところ抗告人が受領しないため、同年五月二〇日大阪法務局に弁済のための供託をしたことが認められ、以上の認定を覆えすに足る疏明がない。

そうすると、相手方が前示の通り会社債務を重畳的に引受けたことにより、相手方は抗告人に対し、会社と連帯して会社が負担している債務と同一の債務を負担したものというべく(大審院昭和一一年四月一五日判決、民集七八一頁参照)、しかも前示引受に至つた経緯からみて、会社と相手方との間においては相手方の負担部分なるものが存しないと解すべきところ、二名の連帯債務者の内一名が負担部分零である場合に他の連帯債務者について債務の全部若しくは一部の免除がなされたときは、その効力は免除者(債権者)の意思如何にかかわらず、負担部分零の債務者に及ぶものであることは民法四三七条により明かなところであるから、抗告人の会社に対する前示免除の効力が―たとい抗告人において相手方の債務まで免除する意思がなかつたとしても―相手方に対しても生じていることはいうまでもなく、従つて、会社及び相手方がした前示弁済及び供託により、相手方の抗告人に対して負担した債務も全部消滅したといわねばならない。

してみると、相手方に対して債権を有することを前提としてなされた抗告人の本件破産申立は、その余の点について判断するまでもなく失当で、これを棄却した原決定は結局正当であるから、本件抗告を棄却し、抗告費用の負担について民事訴訟法第八九条第九五条を適用して、主文の通り決定する。

昭和三七年六月二十一日

大阪高等裁判所第七民事部

裁判長裁判官 小野田 帯太郎

裁判官 亀 井 左 取

裁判官 下 出 義 明

抗告の趣旨

原決定を取消し破産宣告の裁判を求めます。

抗告の理由

一、抗告人橋口新太郎(以下橋口と略称)が大倉木材株式会社(以下大倉木材と略称)に対し金二、〇一二、九一二円の木材売掛未払残金のあつた事は大倉木材も亦大倉徳一(以下大倉と略称)も之を認めて居る処であります。

二、橋口は大倉が大倉木材の前記債務を重畳的に引受けて居るものであると主張致します。

1 甲第六号証重畳債務引受の誓約書は橋口事務所より一応大倉事務所に持ち帰り捺印の上橋口事務所へ持参して居るもので充分玩味承諾の上の誓約書であり争の余地なき事と思料致します。

2 橋口は大倉木材が営業状態不振で売掛代金支払能力がないと断定して居りましたが其の債務を大倉個人が重畳的債務の引受けを為し大倉個人が全額でも支払う確証を得たので安心して取引を為し大倉木材の債権者委員長となり債権の整理迄も引受けた次第であります。

3 若し此の際大倉個人が重畳的債務の引受を為さなかつたとすれば橋口は大倉木材から代物弁済として木材を取り戻すか他店廻り手形の裏書譲渡を要求するか売掛代金の取立債権の譲渡を請求し其の譲渡を受けて居る筈でありますが前述の如く大倉個人が橋口に対し大倉木材の債務の全責任を引受けたので橋口は何等の要求をもして居ないのであります。

三、1大倉木材の債権者会議で二〇%の配当を為し残債権放棄するとの決議が為され橋口代理人は之に同調し配当を受け配当額だけ重畳的債務の引受人の責任が軽減されるに過ぎないものであります。

2 之等の意思表示は総て大倉木材に対する意思表示であつて橋口の大倉個人に対する債務につきては何の影響もなきものであると主張します。

3 民法四三七条は連帯債務に於ける規定であつて連帯債務は当事者の意思表示によるか又は不法行為の如く法律の規定により定まるものであつて本件の如き重畳的債務の引受が当然に連帯債務とは云えないのであると思考致します。

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